【練習9】理由を問う

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  水中では、体重が10分の1ほどになる。水泳がほかのスポーツと決定的に異なっているのは、体の特定部位、たとえばひざなどに体重が集中しないことである。かつ運動量を自在に加減できるという点も大きなメリット(注1)で、その気になれば短時間でエネルギーを消費することも簡単にできてしまう。  もう一つ、意外な効果がある。水中では体温を保つために体内のエネルギーを燃焼させる仕組みが自然に働くことから、知らずに大量のエネルギーを消費していることになる。つまり何もしかしなくても水中ではカロリーを消費するのである。   (岡田正彦『人はなぜ太るのか―肥満を科学する』岩波書店) (注1)メリット:いい点、長所 【問1】何もしかしなくても水中ではカロリーを消費するのであるとあるが、それはなぜか。 1.水中では体温を保つためのエネルギーが消費されているから。 2.水中では体内のエネルギーを効率的に使う仕組みが働くから。 3.水中では運動量も消費エネルギーも自在に加減できるから。 4.水中では体重が軽く、体の特定部位に体重が集中しないから。 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  動物進化には「進化の二大車輪」と言われるものがあります。一つは有名な「自然選択」。環境の変化にうまく適応した動物だけが生き残るというものです。もう一つが、あまり知られていませんが「性選択」。なぜ孔雀くじゅくの羽根は美しくなったのかというと、環境に適応したからではなく、メスが美しい羽根を持ったオスを選び、そういうオスの子を生み続けたからです。人間もこれとよく似ていて「文化進化の性選択」がなされます。  女の子がどういう男の子を好むかによって、実は男の子の生き方が大きく方向づけられ、それが将来的には一国の文化を形成することになります。女の子たちが昔から生きてきた、そして最近になって男の子に対しても強く望むようになった「コミュニケーション志向」は、戦いによる上昇や支配をめざす「コントロール志向」と違って、殺人や傷害に結びつかず、その意味で成熟社会にふさわしいものです。少女の役割はものすごく大きいのです。 (宮台真司「意味なき世界をどう生きるか?」『人生の教科書』[よのなか] 筑摩書房) 【問2】女の子の役割はものすごく大きいのはなぜか。 1.女の子は環境に適応することが上手で、どんな変化にも適応できるから。 2.女の子がどういう男の子を好むかが、国の文化を方向づけることになるから。 3.最近の女の子が成熟社会にふさわしい志向を持つようになったから。 4.男の子より女の子のほうがコミュニケーション能力が高く、現代社会に適しているから。       【答え】 【問1】 1.水中では体温を保つためのエネルギーが消費されているから。 【問2】 2.女の子がどういう男の子を好むかが、国の文化を方向づけることになるから。

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【練習8】下線部の意味を問う

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  裁判官の仕事は、争っている者に対してどちらが正しいかを示すということである。しかし、単にどちらかを勝たせればいいというわけではない。示す判断は、客観的な事実関係に基づいていなくてはいけない。争っている本人たちだけでなく、本人以外の第三者も納得する判断が求められる。争っている者たちは主観的な意見や生の要求をぶつけあうかもしれないが、まず冷静に「主観的な意見」と「客観的な事実」とを区別することから始める必要があるのだ。 【問1】区別することから始めるのはだれか。 1.裁判官 2.争っている者たち 3.判断を求める人 4.本人以外の第三者 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  「NO!」と言える労働者になるためには、まずは自分たちの働き方のなかに「法律違反」があるかを知り、その救済手段を知ることが第一です。今の50代、60代は会社に守られて生きてきた「知らなくて済んだ世代」ですが、今の若者たちは自分たちで生活を守らなければならない「知らざるを得ない世代」。働くことで生活が成り立ち、将来が保障され、人生設計ができるということは、前提にはならない時代を生きています。 (湯浅誠『「NO!」と言えるビジネスマンが社会を変える』AERA Biz 2010.10.10号 朝日新聞出版) 【問2】「知らざるを得ない世代」とあるが、何を知らざるを得ないのか。 1.自分たちが本当は貧しいのだ、ということ 2.「NO!」と言える労働者になれないのだ、ということ 3.人生設計をするとき、何をすべきか 4.仕事の一部に違法性があったとき、どうすればいいか       【答え】 【問1】 1.裁判官 【問2】 4.仕事の一部に違法性があったとき、どうすればいいか

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【練習7】「だれが」「何を」などを問う

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  眠ってからしばらくすると、レム(REM)睡眠というものが始まる。マブタがピクピクする。このレムの間に、頭はその日のうちに、あったことを整理している。記憶しておくべきこと、すなわち、倉庫に入れるべきものと、処分してしまってよいもの、忘れるものとの区分けが行なわれる。自然忘却である。  朝日をさまして、気分爽快であるのは、夜の間に、頭の中がきれいに整理されて、広々としているからである。何かの事情でそれが妨げられると、寝ざめが悪く、頭が重い。  朝の時間が、思考にとって黄金の時間であるのも、頭の工場の中がよく整頓されて、動きやすくなっているからにほかならない。  (外山滋比古『思考の整理学』筑摩書房) 【問1】それは何を指しているか。 1.その日にあったことをしっかりと記憶しておくこと 2.十分な睡眠をとって、気分爽快に目覚めること 3.頭の中が整頓できるように、よく思考すること 4.記憶すべきことだけ残し、要らないものは忘れること 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  私企業の主導的原理である「自己利益の追求」に衝き動かされて馬車馬のようにさんざん働いた親の世代を見て、今の若者は「彼らは結局のところ幸せだったのか」と問い直し、そうした生き方を考え直そうとしている面が確実にある。「不況の中の豊かさ」とも言える不思議な環境を享受する、ある意味で幸運な時代に生きているからこそ、若者は「何らかの活動を通じて自分なりに何か生きがいを見つけたい」「人とつながることによって喜びや充実感をともに感じたい」「だれかの役に立つことによって自分自身の居場所を見つけたい」という願望を実現できる可能性を感じとっている。こういう意識が若者を、広い意味のボランタリーな活動(注1)に向かわせているのだ。 (丸橋恭一、坂田郷一、山下利恵子『若者たちの〈政治革命〉組織からネットワークへ』中央公論新社) (注1) ボランタリーな活動:参加者が金銭的な報酬なしで協力する活動。募金活動や福祉活動のことか多い。 【問2】こういう意識とはどのような意識か。 1.自分の居場所や生きがいが見つけられるかもしれないという意識 2.馬車馬のように働くのではなく、もっと楽に生きたいという意識 3.「不況の中の豊かさ」とも言える幸運な時代を生きているという意識 4.自分の願望が実現できるかどうかを感じとろうとする意識       【答え】 【問1】 4.記憶すべきことだけ残し、要らないものは忘れること 【問2】 1.自分の居場所や生きがいが見つけられるかもしれないという意識

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第5課・飯食わぬ女房①

単語 N1 CHAP 3 SECTION 1 単語 N1 CHAP 3 SECTION 2 ① N + まみれ    Đầy – Dính đầy – Bám đầy 「〜まみれ」は「表面全体に不快ふかいな物がついている」と言いたいときに使う。「借金まみれ」 のように、良くない状況から抜け出せない様子を表すのにも使われる。 〜まみれ Sử dụng khi muốn nói rằng “dính thứ gì đó khó chịu trên toàn bề mặt”. Như trong 借金まみれ được sử dụng để thể hiện trạng thái không thể thoát ra khỏi tình trạng xấu. 例文: 1. 試合終了しあいしゅうりょうのホイッスルが響ひびき、泥まみれの選手たちは雨の中でお互いの健闘けんとうを  たたえ合った。  Tiếng còi kết thúc trận đấu vang lên, những cầu thủ lấm lem bùn đất đã  cùng nhau ca ngợi sự nỗ lực của đối phương trong cơn mưa. 2. 小麦粉こむぎこの入ったボウルをひっくり返した子猫こねこは粉まみれになってしまった。  Chú mèo con làm đổ cái bát chứa bột mì, nên đã bị bột phủ đầy người. 3. 全身血ぜんしんちまみれになった男性だんせいが、担架たんかに乗せられて事故現場じこげんばから運び出された。  Người đàn ông toàn thân bê bết máu được đặt lên cáng và đưa ra khỏi hiện trường  vụ tai nạn. 4. 借金しゃっきんまみれの生活から脱出だっしゅつするために、弁護士べんごしに相談しに行くことにした。  Để thoát khỏi cuộc sống ngập trong nợ nần, tôi đã quyết định đi tham khảo ý  kiến của luật sư. 練習 : ② N + をよそに  Không liên quan đến, bất chấp 「〜をよそに」は「親の心配をよそに」のように「〜を気にしないで」と言いたいときに使う。 「渋滞をよそに」のように「〜とは関係なく」と言うときにも使う。 〜をよそに sử dụng khi muốn nói “không để ý tới/ bất chấp ~” như là “親の心配をよそに”. Sử dụng cả khi muốn nói “không liên quan/ liên hệ với ~” như là “渋滞をよそに”. 例文: 1.

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【練習6】指示語を問う

 【問題1】  人間は「私」の身体は周囲の自然から独立したものだと、思っている。「私」の皮膚ひふから外の世界は他者だ、と思っている。しかし、これは人間の個体意識が作りだした大きな錯覚だった。  人間の身体は、もともとすべての自然、すべての生命とつながったものだ。「私」はもともと「我々」だったのだ。科学技術を進歩させる過程で人間はそのことを忘れかけていた。しかし、宇宙飛行士たちは、科学技術の進歩の最先端で、逆にそのことを思い出し始めている。           (龍村仁『地球のささやき』角川学芸出版) 【問1】そのことは何を指しているか。 1.私の身体は周囲の自然から独立しているということ 2.科学技術の進歩の過程で人間が身体を忘れてしまったということ 3.科学技術の進歩の最先端にいるのだということ 4.私の身体は地球環境とつながっているのだということ 【問題2】  近所づきあいが薄れてくると、町内にどんな人が住んでいるかを知ることもできなくなってしまいます。特に、家に引きこもりがちな、災害弱者とよばれる人の情報は欠如することが多く、市町村の防災関係部局(注1)でさえも、災害時に支援の必要な市民について把握しているところは、25%しかありません。個人情報保護法の施行以来、プライバシーに関わる情報の管理はいっそう厳しくなっていて、災害弱者をますます孤立させてしまう傾向にあります。生命にかかわる災害救助には、情報の活用を許されているといいますが、そのような柔軟な対応は、あまりとられていないのが実情です。   (中田実ほか『町内会のすべてが解る!疑問・疑問100問100答』じゃこめっと出版) (注1) 防災関係部局:役所や役場で、災害を防ぐ仕事を担当している部や課 【問2】そのような柔軟な対応とあるが、その説明として最も適切なものはどれか。 1.災害弱者とよばれる人の情報をいつでも使えるようにすること 2.防災関係部局の救助法に関する情報を自由に使えるようにすること 3.災害救助のために災害弱者の個人情報を活用すること 4.プライバシーに関わる情報を防災に関係なく活用すること         【答え】 【問1】 4.私の身体は地球環境とつながっているのだということ 【問2】 3.災害救助のために災害弱者の個人情報を活用すること

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第4課・まとめ問題②

単語 N1 CHAP 2 SECTION 3 単語 N1 CHAP 2 SECTION 4 単語 N1 CHAP 2 SECTION 5 問題1 [文法形式の判断] 次の文の(   )に入れるのに最もよいものを、1・2・3・4から一つえらびなさい。 1.新人賞しんじんしょうを受賞された皆様、おめでとうございます。 今後のますますのご活躍かつやくを(   )。 1. 祈ってやみません 2. 祈ってたまりません 3. 祈るおそれがあります 4. 祈るにすぎません 2.田中たなかさんは、話し出すと長くなる(   )。 1. ものがある 2. ほかしかたがない 3. 向きだ 4. きらいがある 3.歴史上、恐怖(   )、国民を支配しようとする権力者は少なくない。 1. を問わず 2. をこめて 3. をもって 4. をはじめ 4.親しい仲(   )、借金の保証人ほしょうにんには絶対なるなと親から言われている。 1. というと 2. といえども 3. にとって 4. につけても 5.新製品の発売前によく似た商品名があることがわかり、変更(   )された。 1. を皮切りに 2. を余儀なく 3. を契機に 4. をもって 6.運転するなら、アルコールは一滴いってき(   )飲んではいけない。 1. ばかりか 2. どころか 3. たりとも 4. ぬきに 7.「豊かな海 (   )漁師りょうしだ」 と言って、彼らは仕事の合間あいまに環境保護ほごの活動をしている。 1. あっての 2. に限って 3. とあって 4. に至るまで 練習: 問題2 [文の組み立て] 1.サッカーの監督かんとくは、「今日の試合は、 相手チームに__ __ _★_ __ 」と自信を持って言った。 1. たりとも 2. 勝つ 3. 与えずに 4. 1点 2.大型おおがた台風の接近せっきんで、 __ __ _★_ __ 。 1. 余儀なくされた 2. 中止を 3. 祭りは 4. 今年の 3.「サルも木から落ちる」というのは、 __ __ _★_ __ という意味である。 1. ことがある 2. 上手な人 3. 失敗する 4. といえども 練習: 問題3 [文章の文法]  皆さん、ご卒業おめでとうございます。  一昨年いっさくねん入学した208名めいが、1名めいたりとも [1] ことなく、 本校を巣立すだって行くことを、大変うれしく思います。  さて、人は誰だれでも困難なことを避さける [2] が、「困難はそれを乗り越こえられる人にしか与えられない」 という言葉があります。いかなる困難 [3] 、乗り越えられないものはないということです。それを1つ1つ乗り越こえることによってさらなる成長をし、それぞれの道で活躍かつやくされることを [4] 。  以上、簡単ではありますが、 私わたくしのお祝いの言葉と [5] 。 1.  1. 欠ける 2. 卒業する 3. 飛び立つ 4. うれしい 2. 1. ことを余儀よぎなくされます 2. 次第しだいです 3. きらいがあります 4. はずがありません 3. 1. とあって 2. といえども 3. というより 4. とともに 4. 1. 願えるでしょうか 2. 願ってやすみません 3. 願ってたまりません 4. 願ってはなりません 5. 1. していただきます 2. してさしあげます 3. させていただきます 4. させてさしあげます 練習: 問題4 [聴解] この問題では、まず話を聞いてください。それから二つの質問を聞いて、それぞれ問題用紙の1から4の中から、最もよいものを一つ選んでください。 1. 1. 参加者さんかしゃに感謝かんしゃしていること 2. 許可きょかなく撮影さつえいしないこと 3. 現地げんちの人ひとに品物しなものを与あたえないこと 4. 体調管理たいちょうかんりをしっかりすること 2.

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【練習5】疑問提示文

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  一般に自由はどのように捉とらえられているだろう?  言葉の使われ方を観察すると、たとえば、自由行動、自由時間という場合、決められたスケジュールがない状態を示している。多くの人は「自由」を、「暇」とか「することがない」状態としてイメージしているかもしれない。  必ずしも、「自由」は素晴らしい意味には使われていない。仕事や勉強に追われていると、ついついゆっくりと休みたくなる。少しくらいは怠けたくなる。「一日中寝ていたい」というような欲求が、「自由」から連想される個人的な希望である場合が多い。  はたして、これが本当の自由だろうか?  もちろん「支配からの解放」であることにはまちがいがない。ただし、多くの人にとっては解放されること自体が、自由の価値になっている。解放されたことで何ができるのか、といった「自由の活用」へは考えが及んでいないように見える。                                                               (森博嗣『自由をつくる自在に生きる』集英社) 【問1】この文章で筆者が最も言いたいことは何か。 1.自由は価値あるものと捉えられているが、実は、必ずしも良いものとは限らない。 2.自由というのは、決められたスケジュールから解放された状態のことである。 3.人は自由にあこがれるが、実際に自由になると、何もしたくなくなってしまう。 4.多くの人は自由を解放としか捉えていないが、解放されてどうするかが重要である。 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  では、いったい、装飾という側面から見た、人間と動物との決定的な違いは、どういう点にあるのだろうか。  このことについて、おもしろい意見を述べている人は、名高い『衣装論』を書いたエリック・ギルである。ギルの意見によると、人間と動物との違いは、人間が服を着ている点にあるのではなく、むしろ人間が服を脱ぐことができる点にある、というのだ。  動物にも、立派な服を着ている種族は多いのだけれども、人間が人間たる所以ゆえん(注1)のものは、自分の意志で、気の向くままに、服を着たり脱いだりすることができる自由、自分の好みに合わなければ、さっさと服を脱ぎ替える自由をもっている点にある。つまり、人間は、自分を満足させるために服を着るのであって、動物には、そういう自由はない、という意味なのである。  なるほど、そういわれてみれば、その通りにちがいなく、これは当たり前すぎるほど当たり前の話ではないか。ただ、「服を脱ぐ」という点にポイントを置いたところがおもしろく、こういう意見を、パラドックス(逆説)というのであろう。  着物ばかりではない。人間は室内装飾においても、住宅においても、アクセサリーにおいても、また髪型や化粧においても、自分の好みに合わせて、自由にこれを採用したり捨てたりすることができる。それだからまた楽しいのだ。異性との交友の場合だって、その通りだといったら叱られるだろうか。                                                                     (澁澤龍彦『夢のある部屋』河出書房新社) (注1)所以:わけ、理由 【問2】この文章で筆者が最も言いたいことは何か。 1.動物の中にも、立派な装飾をもっている種族が数多くいる。 2.人は「服を脱ぐ」ものだというのは、パラドックス的な見方である。 3.人間が動物と違うのは、装飾を自由に取捨選択できることである。 4.異性との交友まで装飾だと捉える見方は、一般的とは言えない。         【答え】 【問1】 4.多くの人は自由を解放としか捉えていないが、解放されてどうするかが重要である。 【問2】 3.人間が動物と違うのは、装飾を自由に取捨選択できることである。

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【練習4】比喩

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  もちろん、人生には多少は苦しいこともあろうから、それはそれなりにやってよい。山を登るのに、汗をかくこともあろう。しかしぼくは、それを山頂をめざすためとばかり思うより、登り道のあれこれを、汗を流しながらも楽しむほうを好む。山頂の白雲に思いをはせることはあっても、それは夢でいろどりをそえるためで、やはり現在の登り道にこそ、楽しみはある。  山頂を望み、そして山頂に達することで満足するだけでは、山だっておもしろくあるまい。まして、人生は山登りではない。山頂なんて定まっていない。 (森敦『まちがったっていいじゃないか』筑摩書房) 【問1】この文章で筆者が最も言いたいことは何か。 1.山登りをするのは、人生を楽しむためであって、人生の目的ではない。 2.人生の目標に達することばかり考えず、今生きていることを楽しむほうがいい。 3.人生は山登りとは違うのだから、それほどおもしろいことばかりではない。 4. 山登りは、山頂に達することより、登り道を楽しむことにこそ意味がある。 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  物体は激しく動けば、それだけ摩擦が大きくなる。人間だって、激しく動くと熱を持つのだ。端はたから見れば、輝いている人間のことが、きっと羨うらやましく見えるのだろう。  だけど、輝いている本人は熱くてたまらないのだ。  星だって、何千光年という遠くの地球から見れば、美しく輝く存在だ。 「いいなあ、あの星みたいに輝きたい」 人はそう言うかもしれないけれど、その星はたまったもんじゃない。何億度という熱で燃えている。しかも、燃え尽きるまで、そうやって輝いてなくちゃいけない。  これは真面目まじめに、けっこう辛いことなのだ。  カッコつけているわけじゃない。自分がそうなってみて、実感としてそう感じる。  (北野武『全思考』幻冬舎) 【問2】この文章で筆者が最も言いたいことは何か。 1.輝いて見える星のように、人もいずれは燃え尽きてしまう運命にある。 2.人は成功した人間を羨うらやむが、本人は辛く苦しい思いをし続けている。 3.人は星のように輝いて初めて、生きることへの情熱が実感できる。 4.人間も物体と同じで、激しい運動をすれば摩擦で体が熱くなる。           【答え】 【問1】 2.人生の目標に達することばかり考えず、今生きていることを楽しむほうがいい。 【問2】 2.人は成功した人間を羨むが、本人は辛く苦しい思いをし続けている。

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【練習3】言い換え

 【問題1】  胃の存在は、しばしば意識される。多くの人が、日常的に「胃が痛い」とか「胃が悪い」とか言う。だからといってそれが本当とはかぎらない。  指の先が痛いというのは、はっきりわかる。なぜかというと、脳には指に相当する知覚の領野が、ちゃんとあるからである。逆に、脳のその部分に、なにかが起これば、肝心の指はたとえなんともなくとも、われわれは指が痛いとか、かゆいとか、なにかが触ったとか、そういう判断をする。つまり体の表面に関しては、われわれは脳に地図を持っている。体表とは、外界とわれわれの体を、境さかいする部分だからである。そこはいわば国境のようなもので、脳という司令部は国境で起こることであれば、それが国境のどの部分で起こったできごとかを、明確に把握しているのである。  ところが内臓に関しては、脳にそういう地図はないらしい。そこは本来、「うまくいっている」はずの部分なのであろう。だから、脳はそこに関して、細かい地図を用意していない。それが用意してあれば、胃の小湾側しょうわんがわの噴門ふんもんから約三分の一の部分が痛いとか、幽門部ゆうもんぶの始まりの部分が輪状に痛むとか、見てきたようなことが言えるはずなのだが、もちろんそれは不可能である。  (養老孟司『からだを読む』筑摩書房) 【問1】この文章の内容として最も適切なものはどれか。 1.体表に関する痛みと内臓に関する痛みとでは、脳の把握のしかたに違いがある。 2.脳が地図を用意したことによって、体の痛みを明確に把握できるようになってきた。 3.指の先が痛いとの同じように胃が痛いと判断するためには、訓練が必要である。 4. 体表はいわば国境のようなものだから、内臓よりも体表の方を大切にするべきだ。 【問題2】  私の通った幼稚園には、幅二十センチほどの帯状の地獄があった。  それは「お弁当室」と呼ばれる部屋の戸口の床の、なぜかそこだけタイルの色が変わっている部分のことで、そこを踏むと地獄に落ちると言われていた。  どんな風に落ちるのかは誰にもわからなかったが、踏んだ瞬間に地面がガバッと裂けて、体ごと底なしの穴に吸い込まれてしまうのではないかというのが、園児たちのあいだでのもっぱらの定説だった。お弁当室には、毎日午ひるに各自お弁当を取りに行かなければならなかったので、そのたびにみんな決死の覚悟で「地獄」を飛び越えた。  (岸本佐知子『ねにもつタイプ』筑摩書房) 【問2】この文章の内容として最も適切なものはどれか。 1.筆者が通った幼稚園には「地獄」と呼ばれる部屋があり、園児たちはそこへ入ることをとても怖がっていた。 2.筆者が通った幼稚園には「地獄」と呼ばれる床があり、午ひるになると園児たちはその床を踏まなければいけなかった。 3.筆者が通った幼稚園の先生たちは、園児たちに床の一部を踏ませてはいけないと考えていて、そこを「地獄」と呼んでいた。 4.筆者が通った幼稚園の園児たちは、幼稚園の床の一部を「地獄」の入り口だと考えて、そこを絶対踏まないようにしていた。       【答え】 【問1】 1.体表に関する痛みと内臓に関する痛みとでは、脳の把握のしかたに違いがある。  【問2】 4.筆者が通った幼稚園の園児たちは、幼稚園の床の一部を「地獄」の入り口だと考えて、そこを絶対踏まないようにしていた。

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【練習2】対比②

 【問題1】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  わたくしの目には、都市としての東京も大阪も大同小異(注1)の感があるのだが、日々まあこんなものかと東京と大阪を往ゆき来きして暮らしていると、ときどき《小異》の部分であっと驚く発見をすることがある。  先日、東京のある雑誌がもっとも《大阪らしい》都市風景を多角的に撮るという企画を立て、どこがいいだろうと相談を受けたわたくしは、迷わず大阪湾岸に広がる工場群と港湾施設と海風景をその一つに選んだ。(中略)  ところが、東京の編集者やカメラマンの驚いたこと、驚いたこと。いわく、なぜこんな岸壁(注2)へ一般市民が出られるのかというのだが、なぜ、と尋ねられてこちらが驚いた。出られるのが当たり前だとわたくしは思っていたし、現に釣りをしている人たちがいるのである。  しかし東京では、岸壁という形で海に近づけるのは、日之出ひので桟橋か竹芝たけしば桟橋の水上バスやフェリーの発着場だけだという。  今度はわたくしの方が、しばし考え込むことになった。東京も、大阪と同じく長い海岸線を持ち、同じように港湾施設や倉庫、工場がひしめき、埋立地うめたてちも多い。そのすべてが埠頭ふとうや桟橋という形で岸壁を持っているが、そのどこにも出られないというのは、嘘か真まことか。  これはどうやら真の話らしい。海岸線がすべて企業の私有地ないし港湾局の管理地になっているのは大阪と同じだが、違いは閉じているか否かである。東京はすべての出入り口が閉じられていて、大阪はほとんど開いているのである。                     (高村薫『半眼訥訥』文藝春秋) (注1)大同小異:細かい違いはあるが、だいたいは同じであること (注2)岸壁:船から荷物の積み下ろしなどができるように、海岸に造られた壁 【問1】この文章の内容として最も適切なものはどれか。 1.大阪らしい都市風景は海岸線の工場群と港湾施設で、東京の都市風景と似ている。 2.大阪人である筆者にとって、東京では海岸の出入口が逆向きであるのは驚きだ。 3.東京人は一般市民が岸壁に出られることを知らないが、大阪人は皆知っている。 4. 同じ大都市でも、大阪は海岸線の岸壁に自由に出入りできるが、東京はできない。 【問題2】問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。  いつの頃からかおふくろの味、という言葉をたぶん世の男性たちが作り、その郷愁にこたえてそういう店もでき、もの珍しさに女の私も幾度かのぞいてみると、何のことはない里芋とこんにゃく、ひじきと油揚げの煮付け、ナッパのおひたしなどのことなのである。  要するにこれは昔のごく常識的な惣菜そうざい(注1)であって、何も母親に限らず隣りのおばさんでもうちの下女げじょでも手軽に作り、また町のおかず屋にでも並べられていたしろもので、今だってちょいと一言女房に頼めば家でもすぐ食べられる料理のことではないか。  ただ、見た目は同じであっても、私にいわせて貰もらえば今のこれらの料理の素材は、郷愁のなかの昔の味とは似て非なるもの、というべく、第一野菜の味からして全く別物なのである。戦前はどこの家でも野菜をたくさん食べたし、需要とともに味の注文も多ければ、農家も美味しい野菜作りに情熱を込めたものだった。(中略)  ところで、男性がおふくろの味にあこがれる原因に、主婦の家事の手抜きと子供中心の献立こんだてがいわれるが、私もその手抜き主婦の一人としていわせて頂くと、味覚というのは甚はなはだ流動的かつ身勝手なものとはいえないだろうか。つまり生活全般、現代と密着している人間の口に合うものといえばしょせん現代の味覚であって、今はもうないものねだりともいえる昔の味ではないのである。  おふくろの味ムードに付き合って、漂白(注2)のため皮が固くなり味を失った里芋を、全国画一のだしの素もとを使って煮ころがしてみたところで味気あじけなさを噛かみしめるばかり。                 (官尾登美子『もう一つの出会い』新潮社) (注1)惣菜:おかず (注2)漂白:日や水に当てたり、薬品を使ったりして白くすること 【問2】この文章の内容として最も適切なものはどれか。 1. おふくろの味といえば里芋料理だが、今の里芋は昔の里芋より味が薄くて味気ない。 2.おふくろの味は昔の時代の物で、現代人はそれをもの珍しく感じているだけである。 3.男性はおふくろの味を懐かしむが、同じ料理を作っても今は昔と同じ味にはならない。 4. 昔と比べて、今の料理が美味おいしくないのは、主婦が手抜きをしているからである。       【答え】 【問1】 4. 同じ大都市でも、大阪は海岸線の岸壁に自由に出入りできるが、東京はできない。 【問2】 3.男性はおふくろの味を懐かしむが、同じ料理を作っても今は昔と同じ味にはならない。

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