【問題1】次の文章を読んで、後の問いに対する答えとして最もよいものを一つ選びなさい。
数年前のことである。ある大学の構内でこんな事件が起こった。二人の男子学生が取っ組み合いのすさまじいケンカを始めたのだ。格闘技(注1)系の運動部に入っている男子学生が本気で殴ったので、相手の学生は目のあたりを負傷して、たいへんな出血だったらしい。救急車がやってくる騒ぎになってしまった。(中略)
この二人は同じ学部、同じ学科の男子学生で、その年に入学したばかりだった。これから同じ環境であと四年間も一緒に勉強していくわけである。なんとか和解ができないものかと、私はケンカをした二人の学生と一人ずつ面談することにした。
話を聞いてみて興味深かったのは、この二人の学生が相手に対して言った言葉がほぼ同じだったことである。
「あいつのことは入学したときから虫が好かなかった。目立ちたがり屋で、軽薄で。あんなヤツと一緒に勉強してると思うと、なんかムカついて。あいつみたいなのが将来、福祉関係の仕事をしようなど絶対許せない」
彼らは相手のことをこんなふうに表現したのだ。言葉の選び方に多少の違いはあるが、内容はほとんど変わらない。「①虫が好かない」という表現はまったく同じだった。
理由はよくわからないが、その人間がなんとなくイヤだ、嫌いだというときに、私たちは「虫が好かない」という表現をよく使う。その”虫”とはなんだろうか。
「虫が好く、好かないの背景にあるのは〈注2〉投影という心理である。自分自身が嫌いで隠したいと思っている部分と似た面が相手にみえると、人は無意識に拒絶反応を起こす。相手に自分自身を投影させて嫌悪感を増幅させる。
そこで私は、彼らに②「あなた自身は自分をどんな人間だと思っているのか」という質問を投げかけてみた。深く話しこんでみると、彼らのなかに少しずつ〈気づき〉の兆候〈注3〉がみえてきた。「実は子どものころから目立ちたがり屋のところがあったみたいだ」「いつも自信がなくて、誰かにほめられるのを期待していた」といった、自分を振り返る作業を彼らがし始めたからだ。そして、二人の話した内容を比べてみると、自分が嫌いな、人に知られたくないなと思っている部分が③驚くほどよく似ていたのである。
そのことを二人に話し、私は改めて彼らにきいてみた。ケンカの原因はなんだったと思うか、と。すると、面談を開始するまでは互いにムキになっていた彼らが、こんな結論を導き出したのだ。
「今まであいつのことをイヤだ、イヤだと思っていたけど、本当はあいつのことが嫌いというより、自分の目立ちたがり屋のところとか、そういう部分が嫌いで、許せなかったんですね。あいつといると自分のイヤな部分をみせつけられているようで……」
自分を内省してみることで、ケンカの原因が二人の対立にあったのではなく、実は自分自身の中にあったのだと彼らは気づいたのである。
(井上孝代『あの人と和解する』集英社)
(注1)格闘技:一対一で格闘するスポーツ。柔道、レスリングなど
(注2)投影:あるものの存在をほかのものの上に映すこと
(注3)兆候:物事が起こる前ぶれ
【問1】 ①虫が好かないと表現できる例はどれか。
| 1.とてもイヤなことを言われたので、その人を避けている。 |
| 2.話したことはないが、なぜかイヤだという気持ちを持つ。 |
| 3.とても親しかったが、ケンカして嫌いになってしまう。 |
| 4.初めは親しかったが、何となくつきあわなくなってしまう。 |
【問2】 筆者が②「あなた自身は自分をどんな人間だと思っているのか」という質問をしようと思ったのは、なぜか。
| 1.自分のいいところに気づかせたいと思ったから。 |
| 2.自分自身をふりかえって反省させたいと思ったから。 |
| 3.相手のなかに見た、嫌いな自分に気づかせたいと思ったから。 |
| 4.二人がどんな人間か知りたいと思ったから。 |
【問3】 ③驚くほどよく似ていたとあるが、何が似ていたのか。
| 1.二人が話したケンカの原因が似ていた。 |
| 2.二人の、筆者に対する態度が似ていた。 |
| 3.二人とも自分のことを人に知られるのが嫌だというところが似ていた。 |
| 4.二人が隠したいと思っている自分自身の弱点が似ていた。 |
【答え】
【問1】
2.話したことはないが、なぜかイヤだという気持ちを持つ。
【問2】
3.相手のなかに見た、嫌いな自分に気づかせたいと思ったから。
【問3】
4.二人が隠したいと思っている自分自身の弱点が似ていた。
